編

アントニオ猪木を
子供の時は尊敬していた。
すごい人だと思っていた。
世界最強の男だと思っていた。
無論、プロレスが「ショー」だなんて考えたこともなかった。
新日本プロレスのロゴにある
KING OF SPORTS
という言葉を信じていた。

プロレスがショーだと知ったのは、けっこう大人になってからだ。
20歳の時は、疑っていなかった。
25歳くらいの時に、新日本プロレスの元レフリー ミスター高橋の暴露本をよんで、すごい衝撃を受けたような気がした。
大げさにいえば、天皇陛下が現人神から人間宣言をしたような感じである。(まったく同じ)

突然、多くの人が「おれは元々ショーだってしっていたし、それをわかった上で楽しんでいたよ」的なことを
いうようになった。
おそらく、戦後直後もそうだろう。「天皇陛下が神様のわけねえだろ」みたいなことをいっていた人がたくさんいただろう。
私は心から猪木は世界で一番強いと信じていた。
格闘技世界一決定戦といって、たくさんの試合を行ってきたわけだ。
皮肉にも、凡戦といわれた アリ戦だけが、真剣勝負で、
それ以外のすべての試合は、ショーだったのだ。
「俺は何に振り回されていたんだ」
はっきりいって、入信していた新興宗教がインチキだったとわかった時よりもショックである。
そっちはウスウス気づいていたからだ。
でもよく考えると、猪木が悪いのではない。猪木が入る前からプロレスは存在していて、
猪木はそのルールを徹底的に守っただけなのである。
でも私は、猪木に裏切られた気持ちだった。
今もプロレスは続いている。
米国では、
WWF(World Wrestring Federation)
から
WWE(World Wrestring Entartainment)
に名称変更することにより、はっきりとショーといっている。
日本は公式には何も発言していない。
今は、ほとんどの人がショーをみていると自覚しているはずだ。
私にとってのミスタープロレスはアントニオ猪木である。
ショーだとわかってから、プロレスはほとんど見なくなった。
8歳の時、おじいちゃんの家に泊まりに行き、(昭和49年ごろ)
金曜の夜、プロレスを家族で見ていた。
タイガージェットシンがサーベルで猪木の頭を殴り、流血した。
酒を飲んで真っ赤になっているおじいちゃんが
「お前はどうしてそんなに悪いことをするんだ。ふざけるなシン」
と叫んでいた。

おじいちゃんは、マジで真剣だった。
みんな真剣だったのだ。
当時の猪木はあこがれのヒーローだったが、
政治家に転身したからの猪木は好きではない。