
これが落語の真髄といってもいいと思う。
これ以上の落語を聞いたことはない。
はじめて、芝浜を聞いた時は14歳くらいだった。
TBSの落語特選会でやっていたのだ。(すごい長寿番組である)
当時不登校で学校に行っていないので、
深夜テレビは友達だったのだ。
1980年くらいである。
「落語とはこんなに素晴らしいものなのか」と感動し、
「もっとすごい落語がたくさんあるのだろう」と思って、
それから寄席に通うようになったが、結局これが最高だった。
(落語家になりたいとは全く思わなかった)
古今亭志ん朝の「あくび指南」という落語を新宿の末広亭で見て、
感動したが、あれは志ん朝の技術に感動したのであって、
落語という意味ではダントツで「芝浜」である。
この金明竹(きんめいちく)も面白いですよ。大阪弁がわからない与太郎が勘違いするはなし |
芝浜は、ベートベンの第九に似ている。
年末の風物詩なのである。大晦日の話なので、12月に演じられる場合が多いのだ。
ネタバレになるので、内容には一切触れない。
この話を聞く時は、何も先入観がないほうがいいからだ。
夜中に漫画を読みながら、何気なくテレビのスイッチを入れたら、
落語がやっていた。
柳家小三治である。のちに、日本落語協会会長になり、人間国宝になる人である。
私は落語に興味はなかったが、5分くらい聞いていて、すぐに引き込まれてしまった。
小三治は、まくら(本題に入る前の世間話のようなもの)がとても面白いのであるが、
両方面白いから、名人なのである。
長い話で60分くらいかかるのであるが、全く時間が気にならず、
最後はちょっと泣いていたような気がする。
芝浜とは、現在の品川のあたりだという。江戸時代には、あのあたりは砂浜で、魚市場があった
らしい。
15年くらい前のころ、私はMXテレビと仕事をしていた。
立川談志が大晦日に紅白歌合戦の裏番組で、「芝浜」をやるという話を聞き、
無理やりお願いして、収録現場に行かせてもらったのだ。(収録は12月上旬だった)
私のような落語好きがたくさんいるかと思ったら、私だけだった。
スタジオはスタッフだけで、観客は私だけだった。(本当のはなし)
生で聞く立川談志の芝浜は最高だった。やっぱり泣いてしまった。
聞いてみるとわかるのであるが、この話を映画や、芝居にしてもダメなのだ。
落語でこそ、いい話なのである。
おそらく落語会には不文律のようなものがあって、
かなりの腕の落語家でないと、この落語は演じないのだと思う。
聞いたことのない落語家が、やっているのを見たことがないからだ。
もうすぐ、年末である。
何べん聞いてもいい話であるが、
最初の1回目が、100倍いいものである。
まだ、「芝浜」を聞いたことのない人がうらやましい。
これから、あんな感動を味わえるのだから。