友人のMは普段からノミ行為をやっていた

大学生の時、京王線の調布のそばに住んでいた。
調布からは、府中にある東京競馬場が近いわけである。
近所に住む、高校時代のクラスメイトは、競馬にはまっていた。
かなりはまっていた。
大学生なのに、ノミ屋を利用していたくらいである。
公衆電話から、「〇〇ですけれど、府中の次のレース、2−5と3−7二千円づつ
おねがいします」とか、かけていた。
まあ犯罪行為であることは知っていたが、本人いわく
「忙しくて、競馬場にいけない」といっていた。(嘘)
当時は、現在のようにインターネットも存在せず、JRAでは電話投票システム
というもの存在していたが、初期費用で10万円くらいかかるのと、
抽選なので、なかなかできないのだ。
そもそも大学生が競馬をやるのは違法である。
なにがいいたいのかというと、ノミ屋を利用するほど、競馬に詳しい男だったのだ。
友人からの情報、10Rの1−5は鉄板だから、とにかく買え
私はそれまで、馬券を購入したことがなかったのだ。競馬に関する知識
はほぼ、なかったといっていい。連番と単勝の違いもよくわからなかった。
当時はまだ、馬番は存在せずに、購入できる馬券は、
単勝、枠番、複勝(3着までに入ると払い戻しがある)の3タイプだけだった。
日曜日の午後に、Mから電話がかかってきた。
「もし暇だったら、今日の10Rの1−5は鉄板だから、絶対に買った方がいいよ。
間違いない情報だから、早く府中にいっってこい」
といわれ、暇だったので、私はよくわからずに、原付で府中競馬場に行き、
生まれてはじめて馬券を購入したのだ。1−5を7000円を購入した。
オッズは、15倍くらいだったので、当たれば10万円くらいになるわけである。
なんか、すごくワクワクした。それまでにない感覚だった。
自宅に戻り、大きなミスに気づく
10Rは、だいたい午後3時半くらいにスタートし、テレビ中継もやっているので、
自宅にもどりテレビをつけて、フジテレビも競馬中継を観戦しはじめたところ、
ちょっと悪い予感がしたのだ。
私は、販売員がいる窓口ではなく、自動券売機で購入したのであるが、
なんか適当に買ってしまい、東京の10Rではなく、京都の10Rを買っていたのである。
「やっちまった」と思ったが、前向きな私は、
「もしかしたら、東京の1−5は外れて、京都の1−5がくるかもしれない。オッズをみたら
120倍だから、100万円くらいになる」と思ったのである。
無論、京都のレースは外れ、そして彼のいうとおり、東京の1−5は来たのである。
あの時の怒りの感情は今も思い出せる。
悔しいというよりも、「ふざけるな、自分」というような感覚である。
私は自宅にあった鉛筆を、集めて、それを1本づつ
すべてへし折った。
鉛筆が折れる、「ベキベキ」という音が多少ではあるが、私の怒りを
中和してくれたのである。
爾来、二度とMからはそういう情報はもらえなかった
Mは相変わらず競馬をやっていて、それ以来、いっしょに府中にいくようになった。
でも彼曰く「あれくらい鉄板なレースはない」とのことで
それいらい、彼が「絶対に来る」というレースはなかった。
彼の予想は当たることもあったが、外れることのほうが多かった。
どうせ外れるなら、自分で予想したほうが楽しいことに気づき、自分で
予想するようになった。
まあ、勝つこともなく、たまに勝っても、2000〜3000円くらいである。
私は、のめり込むこともなく、やめてしまった。
あそこで勝っていたら、たぶんはまっていたと思う
物事は最初が重要である。本当にそう思う。
アメリカで生活を始めた当初、ロスアンゼルスのステープルズセンターに、
クリッパーズ対ロケッツのNBAの試合を生まれてはじめて見に行った。
その日の試合は、大熱戦で、2回の延長戦の末に、
クリッパーズが勝つというものだった。
クリッパーズは、当時リーグ最弱のチームで、前年の成績が17勝67敗
だったのであるが、それが強豪ロケッツに勝ったので
お祭り騒ぎである。最初に見たのが、この試合だったので、
NBAとクリッパーズにはまってしまい、それから20年くらいたつ今でも
変わらずにはまってしまっている。

まあ、そういう意味で、あそこで馬券が当たらなくて良かったと思う。
もともと、はまりやすい性格なので、どうせはまるなら、
楽しいことがいいと思うからだ。まあ、馬券予想は楽しいかもしれないが、
私はあまり好きではない。それよりは、企業の将来を予想するほうが
はるかに楽しいのである。